Well-being特別鼎談ていだん

  • 石川 善樹
    いしかわ よしき

    公益財団法人
    Well-being for Planet Earth
    代表理事

  • 角 裕一
    すみ ゆういち

    株式会社ウィルグループ
    代表取締役社長

  • 鳥谷部 大樹
    とりやべ だいき

    株式会社ウィルグループ
    人事本部
    人材開発部マネージャー

ウィルグループでは、当社が取り組むべき重点課題の一つとして「Well-beingの向上」を掲げています。多くの日本企業が事業活動のテーマにWell-beingを掲げる中、人材サービスを中心に国内外でビジネスを展開している当社の取り組みについて、Well-being for Planet Earth代表理事の石川善樹氏を迎え、当社代表取締役社長、ウィルグループに「Well-being」の概念を持ち込み、日々Well-beingの研究や社内浸透を推進している人材開発部マネージャーと意見交換を行いました。W・I・L・L※の領域でWell-beingの向上を図るうえで、今何が必要なのかを語り合います。

※Working「働く」、Interesting「遊ぶ」、Learning「学ぶ」、Living「暮らす」

ウィルグループが考えるWell-beingとは

  • 本鼎談のテーマは、ウィルグループが考える「Well-being」についてです。言葉の解釈は人によって異なりますが、私はWell-beingとは、人々が集まるコミュニティの中で、その人が自然と「いい感じ」だと感じられる状態だと捉えています。
  • 私もシンプルに「良い状態」だと考えています。Well-beingは時間軸で捉えることが大事だと考えていて、人はよい状態(Well-being)だからこそよい活動(Well-doing)ができる。その積み重ねがよい未来(Well-future)をつくる。世の中ではWell-beingが啓発されていますが、当社グループとしてはWell-beingとWell-doingを積み重ねていき、Well-futureを実現したいですね。
角 裕一

Well-being(≒ポジティブ)を波及させていく

  • 当社グループは、取り組むべき重点課題の一つに、あらゆる活動の総和として「Well-beingの向上」を掲げています。外部の石川さんから見て、この取り組み内容はどのように感じられますか。
  • ウィルグループでは、2030年に向けて、世界中の人々に幸せを届けるため、ワークシフト、テックシフト、グローバルシフトの実践を打ち出しています。その最終年度に、「10億人のWell-beingの実現を目指す」というのは、段階的でわかりやすいですね。
  • あらゆる人のWell-beingを実現したいと思っています。ただ人にはタイプがあって、例えば、挑戦することにWell-beingを感じる人、感じない人、安定を望む人がいるように、私の考えるWell-beingが誰しもに適合することはないでしょう。それでも、W・I・L・Lの領域で、社員や派遣スタッフが自分の可能性を信じてWell-beingを実現するための機会を創出していきたいと考えています。
  • ある研究では、人がWell-beingの状態になると、その人の家族や友達、さらに友達の友達にまで波及効果があるという報告があります。こうした波及効果も含めれば、10億人も夢ではなさそうです。人はネットワークの中で生きていて、そこでは良いものも悪いものも波及していきます。どうせ波及させるなら、ポジティブなWell-beingがいいですね。
  • そうですね。私たちもそうした波及効果を意識しています。働く場所において周囲との人間関係は大切ですが、テンポラリーな雇用形態の派遣スタッフは、職場になじめないケースがあります。そこでウィルグループでは、派遣スタッフも長期的に働いてもらうことを大事にしており、フィールドサポーター(現場管理者)が同じ職場で過ごすハイブリッド派遣体制で、派遣先でのチームづくりなどに努めています。特に派遣初期の段階では、休憩時間を共に過ごしたり、仕事面でサポートしたりなど、派遣スタッフが自信を持ち、職場で良好な人間関係を構築でき、結果としてパフォーマンスを上げることにつながる、といった波及のさせ方を目指しています。
  • それは良い取り組みですね。以前、派遣スタッフとして働く方の調査をしたことがあり、その調査では、派遣スタッフのWell-beingに影響を与えるのは派遣先の上司との接し方が最多だったという結果が出ています。
  • 私も入社当初はフィールドサポーターとして、派遣スタッフと一緒に大手家電量販店で勤務していました。当時を振り返ってみても、私の働き方は他社の派遣スタッフにも影響を与えましたし、通常は派遣スタッフがフロア長に意見しても届かないことが多い中、社員がフィールドサポーターとして間に入ると意見が通ることがありました。そういう変化を起こせるのがハイブリッド派遣の価値だと思います。
  • 波及効果の先駆けですね。ウィルグループで「Well-being」という言葉を最初に使ったのも鳥谷部でした。
  • 2014年に、当時社長だった池田会長宛ての提案書で、初めて「Well-being」という言葉を使用しました。ただ当時は、これからの組織・人材開発で重視されていくだろうという程度の理解でした。2018年に、当社のミッションに影響を与えたポジティブ心理学の創始者マーティン・セリグマン博士のイベントを開催し、「ポジティブ心理学の使命はWell-beingな世界をつくること」という話に共感。翌年、全社にWell-beingについての啓発活動を展開しました。
  • それまで、会社で「ポジティブ」という言葉を使っていたものの、ポジティブの定義自体はしていませんでした。私もこのイベントに参加して、「私たちが大事にしているポジティブもWell-beingではないか?」と思いましたが、事業価値に転換できないまま、この解釈をコンセプトとして伝えていくにはどうしたらよいかと考えていた時期でした。鳥谷部がまずWell-beingを理解し、自分にとってのWell-beingとは何か、仕事におけるWell-beingとは何かに向き合うワークショップを何度も開催するなど、社内への浸透に尽力してくれました。
  • ウィルグループでは「これまで取り組んできたことがWell-beingだった」ということですね。Well-beingは新しい人事施策や事業開発において評価されることもありますが、長年取り組んできたことがWell-beingの観点から再評価されることも多い。「誰にとってのWell-beingなのか」という視点で考えると、人事では社員のWell-being、経営ではステークホルダーのWell-being、事業では顧客のWell-beingというようにわかりやすくなります。
鳥谷部 大樹
  • 石川さんの「誰の」という観点に共感します。人材開発部では、社員に対し、まずは「自分の」Well-beingを大切にしようと啓発しています。誰かを変えるよりも、自分が起点となるほうが周りにポジティブな波及効果がありますから。私もいろいろな関係性においてまずは自分がWell-beingであることを大切にしています。そして「関係性の」Well-beingも大切に考えます。私の場合は、社内の仲間との関係性、夫婦の関係性、家族との関係性です。言ってみれば「半径5メートル」の世界ですが、とても大切なものです。これは持続的なWell-being経営に欠かせない土台となるものだとも考えています。これらも社員が自覚して大切にできれば、その総和として、ポジティブなインパクトは大きくなるはずです。

人的資本経営とWell-beingの共通点

  • 横道にそれますが、近年は人的資本経営が重要といわれています。ウィルグループは人を大切にしていますし、お互いの存在を尊重し合うことは、Well-beingにつながる部分があると思います。
  • 人的資本経営は、一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏が人的資本経営コンソーシアムで使い始めた言葉で、グローバルでは約10年前からDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の背景で使われています。会社であれば、女性、中途採用、外国人など立場の弱い人のWell-beingを大事にしようという……。日本では「ダイバーシティ」だけが強調されて女性の管理職を増やせといった議論になりがちですが、本来は性差の区別なくWell-beingやエンゲージメントを高めていくものです。
  • 日本でも、人的資本という言葉を使わなくても、会社は人材を大切にするべきです。すでに終身雇用の時代ではありませんが、会社は社員と相互依存体質的な強みを発揮することもあります。人材流動性が日本と比較すると高い海外では、社員のエンゲージメントやオンボーディング、評価を意識しなければ人はすぐに辞めていきます。人的資本経営は、未来を展望する時に「あなたの会社や社員にはポテンシャルがありますか、そこを意識して経営していますか」と発展的・持続的に考える示唆を含むものです。ただ、ステークホルダーとの会話の中では、ESGやSDGsよりも、KPIや業績に関心が多く集まることもあり、違和感を覚えます。
  • 見ている時間軸の違いですね。短期的に見ている人はKPIや予実の乖離を気にしますし、長期で見ている人ほどWell-beingやサステナビリティを気にします。特に投資家やアナリストは、各企業における個別の取り組みよりも横並びで比較できる売上や利益といった指標に関心を持ちますが、数年後にはWell-beingもこの指標に入るでしょう。現に、米国のS&P社はグローバルESG調査項目に社員のWell-beingを加えましたし、Indeed社は企業のWell-beingについて社員2,000万人以上を調査しており、Well-beingが低い会社には求職者が集まりにくいという傾向が出ています。国際的なイニシアチブのImpact Management Platformでは、投資を行う際にはインパクトを重視すべきとし、インパクトの定義にWell-beingを入れ込んだばかりです。
石川 善樹

派遣スタッフの働きがい向上のために

  • ウィルグループの派遣スタッフは、その働き方を「いい感じ」と捉えている人と、不安を抱えながら働いている人に分かれます。「いい感じ」と捉えているのは、本気で取り組む主軸が別にあり、例えば、子育てをしながら通勤圏内で都合の合う時間帯で働ける人や、自分の夢を追いかけながら派遣の仕事をしている人です。一方、将来的に派遣のままでいいのかと不安を抱えながら働いている人もいます。ウィルグループではこの両者に対して、派遣先で働きがいを感じられるように取り組んでいます。
  • 人材サービスには外部環境の変化の影響もありますよね。
  • そうですね。現在は、人手不足かつテクノロジーの進化により、職種の需給バランスが加速度的に変化しています。特に、販売職やコールセンター、工場での軽作業など、テンポラリーで未経験でも従事できる職種群が自動化されるという潮流があります。そうした人たちにも「いい感じ」になる選択肢を提供したい。最終的に選択するのは本人ですが、やりたいことや自分に合う仕事がわからない人が多く、意志を持って選ぶことは難しいものです。
  • 会社の雰囲気、上司がどんな人なのかわからないという声もよく聞きますね。
  • そうした複数のわからないものがある中で、大量の選択肢を用意して選んでもらうのではなく、その人にとって「いい感じ」になる選択肢を1つ、2つから、3つ、4つと増やしていく。このアプローチをするのにウィルグループが適しているのは、コングロマリット企業であり、かつ日本全国・海外に展開していること。この規模で、これだけの職種を有する競合企業はあまり多くはなく、派遣スタッフのキャリアを横に広げるだけでなく、縦にも伸ばしていきます。例えば、販売から営業、セールスに派生させて、法人営業のキャリアをつくる。コールセンターで働く人は、システムを使いながら丁寧かつ効率良く対応できるので、テクニカルサポートやヘルプデスク、RPAの対応ができる人材に。工場で働く人は、軽作業からよりスキルフルなエンジニアに。これからは派遣スタッフと共に、「今後どうしていくか」について時間をかけて話し合える体制を整えます。キャリアパスを用意してWell-beingを保つことは、ウィルグループの競争優位の源泉となります。
  • 角さんが言われるとおり、派遣スタッフのスキル、キャリア、ライフスタイルを考えることはWell-beingやWell-doingを長く支えることになり、やりがいにもなります。現在は、求職者の取り合いが起きており、マッチングが不十分なことも多いようですが、その点でウィルグループの取り組みは他社との差別化要因になるはずです。

Well-beingの実現にはコーチングが有効

  • Well-beingの実現に向けた取り組みについては、実際に施策を進めている鳥谷部から申し上げます。
  • ウィルグループのWell-beingは、まず関係性に注目しています。その関係性をより良くするための施策で、手応えを感じているのがコーチングの学習です。私もコーチングを学び、Well-beingの向上を実感し続けています。これは、コーチングの核心が「私はどう生きたいのか」という探究だからです。また、よりよい関係性を創るための知恵やスキルがコーチングにはたくさんあるからです。そのようなコーチングを習得することで、派遣スタッフはどう生きたいのだろうかという観点を持ちながら最適なサービスを提供できるようになる。このことは、社員自身のやりがいやWell-beingの向上にもつながりますし、数千人の社員がこのようにアップデートすることができれば、会社の事業価値が上がります。
  • コーチングを受けて生き方が変わったという声はありますか。
  • たくさんあります。新しい学びを得て、毎日生き生きしているという人、未来を描けるようになったという人、今の環境に身を置いていることが喜びに変わったという人など……。社長が冒頭で述べたように、Well-beingは人それぞれですが、コーチングを機に自分自身のWell-beingを育めるようになる人が数多くいます。
  • 手応えを感じているものは、コーチングの習得のほか、多数で話し合う機会に必要なダイアログの実践がありますね。
  • ダイアログの実践を通じて私たちは、お互いの可能性を信じ、共に引き出し合い、協創することを学び続けています。よい未来は、このようにして創られていくものだと感じています。コーチングを通じて個と組織をポジティブに変革し、ステークホルダーとのダイアログを通してWell-beingを未来へとつなげていきたいと思っています。
  • ウィルグループのWell-beingを向上させ、日本社会、さらに世界へと広げていけるよう、これからも力を注いでいきます。