社長メッセージ
"人生のテーマ"を与えてくれた、
新入社員の一言
2023年6月の株主総会後の臨時取締役会でウィルグループの代表取締役社長に就任しました。セントメディア(現 株式会社ウィルオブ・ワーク)に入社したのが2003年で、グループ会社の営業本部長や代表取締役社長、当社の人事本部長や取締役を経て、現在にいたります。
学生時代の私はサラリーマンにはなりたくない、スケートボーダーかラッパーになりたいと考えていました。当時はバックパッカーとして世界を放浪しながら、「お金を稼いで友人と海外で豪遊する」というのが将来の夢でした。そのために30歳で社長に、40歳で会長にと考え、自分自身の成長が早そうな人材業界で就職活動をしていた際に見つけたのがセントメディアです。就職活動の採用面接では、「30歳で起業したいです」と言い続けていましたが、セントメディアだけはその言葉に「普通だな、もっと早く起業しなさい」と返されたのを覚えています。「5年で圧倒的に結果を残せ」という言葉とともに、セントメディアに入社しました。
入社3年目でウィルホールディングス(現 株式会社ウィルグループ)設立に伴い、池田良介会長(当時は社長)から「成長する会社には必要だから人事部をつくれ」と指示を受け、手渡されたのが『ビジョナリー・カンパニー』(ジム・コリンズ著ほか)という本です。この本の内容に感銘を受け、何世代にもわたって永続する会社をつくりたいと思いました。そこで人事部のスタートとして、ミッション・ビジョン・バリューをつくることにしました。
ここで当社グループのカルチャーを象徴するエピソードがあります。これが私の夢や、仕事の価値観、生き方を変えるきっかけとなりました。当時、バリューをどのような言葉にするか決めあぐねていた中、採用プロジェクトの社内会議をしていた時でした。その年の採用活動のテーマが『Believe in Your Possibility』に決まり、今年も頑張っていきましょうということで会議を終え、役員や管理職をはじめ、約30人の出席者が席を立ちかけた時のことです。
人事部に配属されたばかりで書記をしていた新卒の女性社員が突然発言したのです。「一言発言させてください。この採用テーマ「Believe in Your Possibility」こそ、私たち全員の価値観なんじゃないでしょうか。実績がない中でクライアントに働きかけたのも、成果にコミットできるチームをつくったのも、自分自身や仲間たちの可能性を信じてきたからですよね。この可能性を信じる力がなければ今の私たちはないと思います。これがこれからも変えたくない価値観なんじゃないですか?」と。
数秒間の沈黙の後、その場にいた全員がどっと沸いたんです。その瞬間に、すごいな、良い会社だなと心が揺さぶられました。新入社員の言葉に耳を傾けて、みんながその言葉に共鳴する。これこそ私たちの価値観だと。それ以降、「海外で豪遊」する夢よりも、この仲間たちと一緒にミッションとビジョンを実現しよう、世のため人のためにきれい事を実現しよう、そのために自分たちの可能性を信じ続けよう、その大冒険をしていこうと、私の新たな夢と進むべき道が決まったのです。
人の心に火をつけ、永続する会社に
新たに社長に就任しましたが、当社グループの実力主義の社風、成果を個ではなくチームで創出しようとすることや人間関係の質を大事にする文化はこれからも変わらず大切にしたいものです。そして、ミッション・ビジョン・バリューもまた変わらない大事なものです。
現在は人材会社の多くがサービスを通して、社会に雇用を創出する、キャリアアップを促す、Well-beingを向上させていくなどを目標として掲げていますが、まだまだ実現しきれていない部分や、人材サービス自体が本来はもっと大きな成果や価値を創出できるはずであるとも考えています。その本来の価値とは何かを20年間考え続けてきました。
例えば、当社グループでは、ミッションに「個と組織をポジティブに変革するチェンジエージェント・グループ」を掲げていますが、数千人の社員一人ひとりが頭と心を常にフル回転させて考え、徹底して実現できているわけではないと思っています。だからこそ、そこに火をつけていくことが社長としての一番大事なテーマであると考えています。
経営である以上、駄目だったら終わりというノックアウトラウンド方式であることは承知していますが、私自身は短いスパンで経営を行うのではなく、10年、20年先を見据えて叶えたいことを実現していくという想いで経営をしていきたいと考えています。また、並行して今期中にサクセッションプランをスタートします。私の引退後も、次の世代、孫の世代になっても会社が永続できるように準備しておきます。
近年は外部環境の変化が激しく、当社グループの事業にも少なからず影響を及ぼしています。現在、多くの企業が人手不足という課題を抱えている一方、働く人たちにはテクノロジーの急速な社会実装による職のミスマッチが起こると考えています。例えば、これまではコールセンターや工場において24時間対応にするために勤務時間の異なる人を雇用していました。しかし、コールセンターのオペレーターは24時間365日稼働するチャットボットに、工場の作業員はロボットに代用されるなど、テクノロジーにより人間が介在する価値の低い職種が顕在化します。このほかにも地域格差、年齢格差、賃金格差、就労格差など多くの社会課題があり、こうした状況下で永続する会社になるために戦っていかなければなりません。
ウィルグループの強みと実現したい
ビジネスエコシステムの構築
事業の差別化がしづらい人材業界において、当社グループは「フィールドサポーター」(FS:現場管理者)の現場での管理能力をひとつの強みとしています。
例えば、100人のスタッフさんが必要なクライアントの職場に、派遣会社1社が100人全員を派遣することは滅多になく、数社の派遣会社が人材を派遣します。しかし、スタッフさんのトラブルは日々起こるため、そのたびにクライアントが各派遣会社に連絡するのは手間がかかります。そこで、FSが職場でその相談役、まとめ役といった存在になります。同じ職場にいてくれる最も心強いパートナーになり、結果的に最初に頼りたい存在になるのです。これにより当社グループの需要が増え、クライアントから選ばれる会社となっています。
当社グループがこの方法でイニシアチブをとれるのは、社員やFSが職場のチームビルディングや人間関係を良くすることにこだわっているからです。スタッフさんにとって、いかに居心地の良い職場にするか、ただ働きに行く職場ではなく仲間と触れ合える、その人にとっての居場所と思える場所にするかということを大事にしています。この関係性や人間関係の質にこだわることで、主体的な請負の委託組織が出来上がり、クライアントからも高い評価をいただいています。
こうしたことを実現できてきたのは、やはり採用にこだわってきたからだと思います。誰かの困り事を敏感に察知するEQ(感情知能)の高い人材であるかどうかを採用では見極めます。そうした人材が当社グループに対するコミットメントや、クライアントに対する愛情を持ってパフォーマンスを出せる状態を現場でつくれているということが、当社グループの一番の強みだと思います。
また、これからは働く人に対しての価値提供ができる仕組みづくりにも注力していきます。例えば、周囲から必要とされる経歴があり、キャリアを保有できる状態。次にどの方向に進むかという選択肢を常に自らの意志で持つことができる状態を、仕組みとしてつくりたいと考えています。
私は派遣という働き方がこの先もっと魅力的な働き方になると考えています。今までは、どちらかというと正社員で、有名な会社に長く勤めていることがわかりやすく評価されていましたが、今はフリーランスなどの働き方があるように必ずしも会社に属することだけが評価されることではありません。それよりも、いかに自由であるか、自分が選択肢を持つ側にいるかということが大事な要素だとすると、派遣という働き方は、派遣先との契約期間が終了しても、派遣元が雇用し続ける限り無職にはなりません。正社員と比較すると、ライフイベントや住む場所によって何かをあきらめるというトレードオフが発生しづらい自由度の高い働き方です。しかしながら、派遣のもったいないところは、キャリアアップが実際はキャリアアップになっていないケースが多いことです。従来、事務職は事務職、営業職は営業職と、同じ職種にスライドすることはできていました。ただ本当に派遣スタッフのキャリアアップを考えるならキャリアの奥行きが求められると考えています。奥行きとは必要とされる要素の大小です。習熟期間2時間の軽作業の検品をしていた人が、そのスキルのままで熟せる事務職に就くことはキャリアアップとは言えず、これは単なるジョブチェンジに過ぎません。なぜなら、その人材が今後必要とされる要素が少なく、キャリアに奥行きがあまりないからです。
私が考えるキャリアアップとは、例えば、食品工場で検査をしていた人が、プログラミングスキルを身に付けエンジニアとして場所を選ばない仕事を始められる、コールセンターでオペレーターをしていた人が、専門資格を取得し、建設現場の施工管理技術者として専門性の高い仕事を始められるというものです。その職種に興味があり特性上も問題なければ入り口に立つことができ、そこで必要とされてキャリアアップとなる。つまりは、奥行きのない職種から奥行きのある職種へとキャリアを変える、これがキャリアアップだと考えています。人材業界で会社だけが利益を得るという仕組みはすでに限界がきており、これからは派遣スタッフが頑張った分だけ収入を得られるようにしないと業界は拡大しません。
当社は投資家からコングロマリットだと言われます。私も数年前まで職種を広げ過ぎだと思っていました。今ウィルグループを見渡すと職種はさらに増えています。しかし、だからこそ私が考えるキャリアアップを実現することができます。奥行きがある職種群と奥行きのない職種群の両方を持つのが当社グループの特徴で、両方を持つからこそ前述したキャリアアップのビジネスにおけるエコシステムを構築していくことができるのです。
今後はこのエコシステムを構築していき、最終的には働く人が希望する会社に送り出すという紹介機能も持ちたいと考えています。未経験者が通常では考えられないような、奥行きがある職種群の企業に必要とされて転職していく。そんな光景をまだまだ見てみたいですし、個人がキャリアアップをしていき、世の中にキャリアの流動性を生み出すことは、人手不足や職のミスマッチなどの社会課題の解決に寄与するものと捉えています。
人の可能性を信じられる社会を
つくる
「私たちと一緒に可能性を信じてほしい」。これがステークホルダーの皆さまへのメッセージです。日本は先進諸国と比較して人的資本への投資が少なく、社員のエンゲージメントは低く、やる気も転職する気もなく勉強もしていないといったデータがあります。これは社会が人の可能性を信じきれていないからだと考えています。社会が人の可能性をより信じられる状態にするために何をすればいいのか、これが私たちの未来に対する問題です。子どもたちが大人になって社会に出るときに希望が持てないというネガティブなスタンスを変えなければなりません。
悲観する必要はない、大丈夫だからもっとチャレンジしよう、やりたいことを探そう。私たちにはそうした社会を実現する責務があります。バリューの「Believe in Your Possibility」は事業活動の重要な源泉です。一人ひとりが自分の可能性を信じられる社会をつくるため、ネガティブからポジティブへと切り替えを促していく。ぜひ皆さまからも「ウィルグループにはこんなことをしてほしい」と要望を出していただきたい。当社グループの社員はそういう声に本気で耳を傾けて取り組みます。たくさんの声をいただくことで私たちも成長することができます。これからのウィルグループにご期待ください。