社外取締役鼎談ていだん

  • 社外取締役(独立役員)
    高橋 理人
    たかはし まさと

    株式会社リクルート(現株式会社リクルートホールディングス)で、インターネット部署の立ち上げ責任者を務め、「情報と人との関わり」に従事。2007年以降は楽天株式会社で、基幹事業であるEC事業やその周辺事業の責任者・常務執行役員として事業開発やDXを推進し、企業の大きな成長に貢献。2022年6月より当社社外取締役就任。

  • 社外取締役(独立役員)
    市川 祐子
    いちかわ ゆうこ

    楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)にてIR部長を務め、現在は複数企業の社外役員を務めるほか、企業のIR担当者や起業家向けにコーポレートガバナンスやIRのコンサルティングに従事。当社の、コーポレートガバナンスの一層の強化に尽力いただくことを期待し、2024年6月より当社社外取締役に選任。

  • 社外取締役(独立役員)
    腰塚 國博
    こしづか くにひろ

    コニカミノルタ株式会社で取締役兼CTOを務め、DX推進や新規事業創出、海外の大型M&A、MOT、経営戦略策定などに従事。2019年の役員定年後も同社において上級技術顧問や産学官AI開発プロジェクトの理事長・オーナーを務めるなど、技術戦略の策定や推進に貢献。2022年6月より当社社外取締役就任。

企業環境が大きく変化する中、中長期的な企業価値向上に向けて、これまでとは違うガバナンスの課題に、企業はスピード感をもって対応することが求められています。この社外取締役鼎談では、ウィルグループのガバナンス経営およびサステナビリティ経営に対する期待と課題について、3人の社外取締役が語り合います。

社外取締役として有用な情報を発信

  • 社外取締役に就任して3年目になります。一般的に社外取締役の役割は、独立した立場から経営を監督し、客観的な視点で助言を行い、最終的に企業価値の向上と持続的成長に貢献することです。企業価値の向上とは、単に株価を上げるというだけでなく、社会において会社が果たす役割を高めるということ。また持続的成長は人的資本なくして語れないというのが世界の共通認識です。これらを念頭に置き、人材事業を手掛けるウィルグループの社外取締役として、ガバナンスの視点から情報を発信していきたいと考えています。

  • 私は今年ウィルグループの社外取締役に就任しました。当社は人材派遣事業と人材紹介事業を手掛け、その下にさまざまなビジネスドメインを持ち、潜在的な企業価値が大きいと感じていますが、まだまだそれを外部に伝え切れていないと感じます。また会社として事業を通じてどの方向に社会貢献していきたいのかももっと発信できるはずです。実際にボードの中に入って見ると面白い会社だと分かりますが、外部にも魅力が伝わるよう、これをストーリーとして発信していってもらいたいですね。昨年から経営陣も世代交代して組織に活力を感じるので、私もそこに貢献したいと考えています。
  • 私もウィルグループの社外取締役になって3年目となりますが、この会社と関わってきて感じることは一言でいうと、期待どおりに成長しているところです。会社をプライム企業に成長させてきた経営陣からバトンを受け取り、新しい若き経営陣が経営の舵を取っています。角社長は重圧もある中、物怖じすることなくチャレンジしています。私も会社という船の方向性を一緒に考え、また外部からの見え方にも配慮しながら行動していきたいと思っています。

取締役会のフランクさ、透明性は文化

  • 当社の取締役会は真剣な場でありながらフランクな議論ができるのが最大の特徴です。社外取締役は株主の利益代表とも言えるため、会社によっては社外取締役に情報を隠すこともあります。しかし、当社では良いことも悪いことも包み隠さず相談してくれるので、我々も一緒に頑張ろうと思えます。取締役会の前の経営会議の議題やアジェンダも共有され、透明性が担保されています。
    これはオーナーシップを持つ若い経営幹部が多数育っていることが大きいと思います。今の経営幹部が会社と共に成長する過程で、失敗は失敗、成功は成功だとフランクに話し合い、スピード感を持って進んできたから醸成された風土です。その次の世代の育成にもぜひ伝承してほしいですね。
  • 私が就任前から感心しているのは、サクセッション(事業承継)をしっかり実行していることです。後継者の指名については、社歴が四半世紀の会社ながら経営をどうするか計画的に考え、経営トップとそれを支える執行メンバーの大半を入れ替えることはなかなかできないことだと思います。報酬については、当社の取締役・執行役員の報酬額を決定する報酬委員会とは別に、子会社においても独立した報酬決定プロセスを設けています。腰塚さんがおっしゃるように、オーナーシップを持ち自分事とするための報酬体系があります。ただし海外役員の報酬体系は、日本の会社がつくるには税制上難しい問題があり、検討の余地があります。
    取締役会前後の情報共有について私も不満はありません。分からないことはいつでも質問できますし。また取締役会は活発な議論だけではなく、角社長が執行の代表として臨んでいて緊張感がありますね。
  • 今年は角社長から中期経営計画の目標の下方修正の発表がありました。これは急成長してきた会社が国内外の労働人口不足という踊り場に来て、人材事業の在り方が変わる中、会社としてジャンプするために1度しゃがむという選択をしたということです。この選択は会社の持続的成長を考えれば私も賛成ですし、捲土重来のストーリーを想定したものです。もちろん投資家に不安を与えるものですから、その議論は取締役会でも十分にしています。
  • そうですね。我々が手掛ける人材派遣事業は世界中に存在し、景況に左右されやすいボラティリティの高い産業です。そこで角社長が勇気を持って、中計の目標を下方修正し発表するのは、並大抵の覚悟ではできません。ウィルグループとして次に何を目指すのか、もう一度ちゃんとやりたいという強い意志があり、外部の評価が下がることも承知した上での選択です。それを私は尊重しますし、乗り越えなければならない試練です。
    大事なことは、ボラティリティの変化に対応するアジャイルな経営ができるか。あらかじめ設定した3年後の果実を得るための設備投資を行う会社ではないので、変化に対して勇気を持って臨めるかが重要となります。私はそこを鼓舞していきたいですね。

  • 取締役会ではさまざまな議論をしていますが、結論を出せない取締役会に存在価値はありません。我々には解を出す責任があるので、今後は当社がどう成長し、どんな競争優位を保てるのかを考えていきます。
  • 社外取締役としての価値や存在意義とは何かと思う時がありますが、当社では経営陣が我々の意見や指摘を前向きに受け止め、聞く耳を持ってくれるので、未来に向けた議論も一緒にでき、やりがいがあります。また社員と共に過ごす社内イベントも頻繁にあり、「社外取締役を囲む会」と題した会の参加者も若手社員が多く勢いがあります。そういうフランクでオープンな会社の雰囲気が取締役会にも反映されていると感じます。
    加えて会社に求心力を持たせる仕掛けとして、役員も社員も学ぶ機会が多く設けられていますね。人材派遣領域だけでなく、他の領域にも目を向けさせる勉強会やイベントがあるのも当社の特徴です。

グローバルガバナンスとその情報発信が課題

  • 目の前の課題の一つにグローバルガバナンスがあります。一昨年までは海外の売上に助けられてきましたが、昨年から建設技術者領域を中心とした国内Workingが助ける形に変わりつつあります。これまでは海外のプロフェッショナルの自主的な経営を尊重してきましたが、現在の景況感では海外のガバナンスをより強める必要が出てきました。これからは国や地域の特性を踏まえ、当社の成長施策を経営陣と共に考えていきます。
  • この課題は当社に限ったことではなく、日本の投資家からすると海外事業は分からないことが多くて投資できないのが実情です。当社でも、いくら海外に力を入れても投資家から評価されないのは、腰塚さんがおっしゃるように、現地のプロフェッショナルに委ねていた部分が大きく、成果が見えづらかったことも理由です。
    また、当社の海外Working事業の強みが見えづらいというのも理由の一つで、これから海外Working事業をどのようにフォーカスしていくのかをもっと明確に示し、投資家の理解と評価を高める必要があります。もっとも会社としてグローバル戦略を掲げて、海外事業にチャレンジしていることは評価されるべきです。日本企業の海外進出に対して投資家からは少し批判的な評価をされることもありますが、人材分野で取り組める市場は世界中に存在しているので、そこは温かく見守ってほしいと思います。
  • 当社は海外において独自のポジションを築いています。例えば、オーストラリアでは、政府系や銀行系などの取引先が多くを占めています。これを日本に置き換えて考えてみると、日本の政府系や銀行系が海外の人材派遣会社を使っているということです。それと同じことを、我々が海外でやっているわけです。ただ、この特殊な強みは一般の方々にはなかなか理解されにくいんです。「ああ、そうなの?」という反応になりがちで、宣伝が難しい。このユニークな市場ポジション、言わばレアな強みをどう効果的に伝えるか。それが当社の大きな課題です。
  • 日本の投資家、特に個人投資家が海外事業を評価する際に、海外の景況感をどの程度知っているのか、また逆に、海外の投資家が日本の人材市場をどれだけ知っているのかが前提となります。日本の人材事業は免許制ですし、各国でもさまざまな制約条件があります。まずそこを説明していくのはどうでしょう。国や地域で業界構造もビジネスモデルも異なり、強みや競争優位性を伝えるのも難しい中、当社のIR活動はよくやっている方です。レアな強みをシンプルに発信するところから始めてもいいと思います。
    重要なのはどこを軸に成長していくのか。当社でも国内Workingと海外Workingは名称の分類でしかないので、どこに注力するのかを中計に照らして考えていきます。

株主・投資家の皆さまへのメッセージ

  • ウィルグループは単なる人材の仲介や紹介をしている会社ではなく、人材の長期的な成長と価値向上まで支援しています。人材を社会に送り出し、職に就いたらその後のキャリアアップの道順を示し、その過程で教育も行うという、出世魚をデザインした機会や情報の提供があります。AをBにするだけでなく、AをBに成長させた後にCに持っていくという機能が働いています。私が惹かれるのは、「社会に付加価値を与える」という考え方です。人材派遣会社としてこれを大切にして成長していきたい。この想いはすでに当社の良心として全社に行き渡っており、立派なハートやマインドを持つ若い社員たちが社会貢献につながる仕事をしてくれています。
  • ウィルグループはそうやって人を大事にしていく会社ですね。ともすれば、人材派遣は人が不足しているところに人をはめていくだけのイメージがありますが、そうではなく人をつなげていく。これこそが当社の企業価値を高めていくのだと思います。ただし、無装備では山は登れないので、自分たちの資産は何かを考えた上で事業を展開することが肝要です。ウィルグループの事業がWorking(働く)を起点として、Interesting(遊ぶ).Learning(学ぶ).Living(暮らす)といった領域にまで広がりを創造できるようになれば独自の進化を遂げるでしょう。それをいつまでも目指し続ける会社でありたいですね。
  • ウィルグループは自社と顧客企業の人的資本に貢献する会社です。さらに個人という人的資本を派遣から始まって正社員に育てていくことで、社会の人的資本にも貢献します。これを角社長が実現したいとおっしゃっていたので、私たちもそれを後押しできるよう動いていきます。